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食道癌手術の低侵襲化に向けた取り組み(開胸手術と胸腔鏡手術のランダム化比較試験)

食道癌に対する外科的治療は胸部の手術操作が主体となり、一般的に胃癌や大腸癌など他の消化管癌に対する根治的手術と比較して、手術侵襲(手術による身体への負担)が大きくなる傾向にあります。食道癌に対する根治的手術では長らく開胸手術が行われてきましたが、手術中の十分な視野を確保するために肋骨と肋骨の間を大きく開創しなければならず、術後の疼痛やリハビリの遅れ、肺炎のリスク、将来的な呼吸機能への影響も懸念されてきました。これらを低減するため、小さな創だけで体腔内(身体の中)に細いカメラと手術操作用の器具を挿入して行う胸腔鏡手術や、様々な手術支援ロボットを用いた低侵襲手術の開発が進められました。

一方で、新たな技術を用いた鏡視下手術が従来の開胸手術と比較して本当に治療成績で劣ることがないかどうか、世界的にもその十分な根拠がなかったため、日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)で開胸手術と胸腔鏡手術を比較する多施設でのランダム化・前向き比較試験(JCOG1409試験)が実施されました。試験は慶應義塾大学病院も含む31施設で行われ、2015年から2022年にかけて全国から300人の患者様にご参加を頂きました。

本試験の主要評価項目である全生存に関しては、フォローアップ期間中の中間解析の時点で、胸腔鏡手術のグループでは3年全生存率が82.0%であった一方、開胸手術のグループでは70.9%という結果になりました。胸腔鏡手術が開胸手術を上回る傾向が示され、本試験では胸腔鏡手術は開胸手術に対して劣らないと結論づけられました。同様に無再発生存(根治的治療のあとに再発なく生存している期間)も、3年無再発生存率が胸腔鏡手術で72.9%、開胸手術で61.9%と、胸腔鏡手術が開胸手術を上回る傾向が示されました。

手術関連の合併症については、術後肺炎や反回神経麻痺の発生が胸腔鏡手術で低減された一方、縫合不全は胸腔鏡手術で多く認められました。さらに、手術から3ヶ月後の呼吸機能は胸腔鏡手術で開胸手術よりも良好であり、同様に術後3ヶ月の創部の痛みも胸腔鏡手術で少ない結果となりました。

食道癌に対する鏡視下手術の安全性と利点が改めて示された今回の結果を受けて、慶應義塾大学病院では胸腔鏡手術やロボット支援手術を中心に手術の低侵襲化への取り組みを継続しております。また、食道癌の治療は手術手技だけでなく、薬物療法の安全な継続や術前術後の栄養管理、リハビリテーションなどの複合的なアプローチで、患者様ひとりひとりの全身状態から背景に合わせて、より良い治療を検討して行くことが重要となります。外科・内科・内視鏡科・放射線科・リハビリテーション科・栄養部・薬剤部をはじめとする診療チームが一丸となって、総合的な取り組みで治療成績を向上させて行くことが大切だと考えられます。

文責  松井 一晃

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