米国カリフォルニア州サンタモニカ Saint John’s Cancer Instituteへの研究留学
私は2019年4月から2022年3月までの3年間、米国カリフォルニア州サンタモニカにあるSaint John’s Cancer Institute (旧John Wayne Cancer Institute)に研究留学を致しましたので、その体験をご報告します。
以前より漠然と「海外で、家族と生活したい!(もちろん、研究もしたい)」と考えていました。ただ、私は大学院には入らず、大学で臨床に携わりながら実験を行い学位を取得しておりましたので、十分な研究の実績があるとは決して言えない状況でした。2018年11月、娘が生後1ヶ月になり、「そろそろ移動のタイミングかなー、遠いと移動とか、ちょっと大変だなー」と思っていた頃、川久保博文先生より「そろそろサンタモニカの準備を始めよう!」とご連絡を頂きました。すぐに「はい!」と返信しました。どんな不安よりも海外生活(もちろん研究含む)の夢が叶ったことが嬉しかったことを今でも覚えています。
お返事した後に一気に様々な不安が押し寄せて来ました。お金がない。研究実績が足りない。子供が小さく、生活が不安。妻の仕事。。。帰宅後妻に話すと、想像以上に喜んでくれて、その表情を見て前向きに準備に取り組むことが出来ました。楽しい留学生活を想像して取り組めば、どんなに大変な準備もなんとかなります。私の場合は研究の基礎が十分に身についておりませんでしたが、北川雄光先生、尾原秀明先生、福田和正先生にご尽力いただき、留学決定後週2回程度一般・消化器外科の研究室で学ぶ機会を頂き、留学前に最低限の研究手技を身につけることが出来ました。その後も竹内裕也先生、西知彦先生を初め、数々の先生方にアドバイスを頂き、準備を進めました。
Saint John’s Cancer Instituteは世界で初めてセンチネルリンパ節生検を行ったDonald Morton先生が中心となり設立されたがん専門研究施設であり、私は設立メンバーの一人であるDave Hoon先生が運営するDepartment of Translational Molecular Medicineに留学させて頂きました。本研究室にはこれまでに竹内裕也先生、小柳和夫先生、北郷実先生をはじめ数々の多くの先輩方が留学されており、一般・消化器外科と親交の深い研究室です。Hoon先生は日本に留学経験があり、奥様が日本人ということもあり大変な親日家で、我々以上に日本に詳しい先生です。
研究室はシカゴとサンタモニカを結ぶ有名なルート66、サンタモニカ通り沿いにあり、ロサンゼルス空港から20分、サンタモニカビーチから10分と最高のロケーションにあります。
Saint John’(s Cancer Instituteはアメリカ西海岸で50以上もの大病院を束ねるProvidence medical groupの傘下に入っており、これらの病院群からの臨床サンプルにアクセス可能という強大なバックボーンを獲得しております。Santa Monica市内では動物実験が禁じられており、実験は細胞を用いた実験が中心となりますが、多くの臨床サンプルが手に入ることは橋渡し研究を行う上で非常に有利だと思います。
研究室は1-4名程度のポスドク、10名程度の実験助手や事務から構成される比較的小さな研究室です。インド、フィリピン、中国、日本、イランなど世界各国からメンバーが集まっており、なんと純粋な米国人はラボに1名しかいませんでした。Adelson Medical Research Foundationという医学研究基金が掲げるリサーチテーマに従い悪性黒色腫やユビキチン・プロテアソームシステムを中心とした研究をしております。実験助手は日々送付されてくる臨床検体(血液・尿)からの核酸抽出処理を中心とした業務をしており、ポスドクは各々研究テーマを持ち自ら研究立案、そして全ての実験を自分の手で行います。
国際色豊かなラボメンバーとクリスマスパーティー。サンタモニカビーチにて
皆フレキシブルに通勤しており、なかなかラボメンバー全員は揃いません
私の研究テーマは大きく3つ、1.食道癌におけるシスプラチン耐性2.トリプルネガティブ乳がんにおけるシスプラチン耐性 3.トリプルネガティブ乳がんにおけるPARP阻害薬耐性 でした。1.は前任の西知彦先生から続いていた研究で、2.3.は私が在籍中に初め、今も一部後任の先生方が引き継いで研究を進めてくれています。研究資金に関して非常にシビアで、留学最初の1年は多くの時間を研究助成の応募とそのための研究に費やしました。一度研究助成を獲得すれば、自分のやりたい研究を好きなように進められる、自由度の高い研究室だったと思います。もちろん私は研究初心者でしたので、多くのスタッフに助けられながら研究を進めました。
勤務は朝8時頃(実際には朝6時半に家を出て、ゴルフ練習or筋トレ)から始まります。多くのスタッフが11時頃出勤しますので、早めに出勤することで自分のやりたい研究を効率よく進めることが出来ました。夕方15時頃には帰宅ラッシュ回避のために多くのスタッフが帰途につきますので、その後も実験が円滑に進みます。17時頃になると仕事が一段落したHoon先生がラボの様子を伺いに来ます。これまでに留学した日本人の昔話や最近の日本のニュースの話に花が咲き、あっという間に帰宅時間になります。休日は自分の研究があれば出勤、なければ休みです。アメリカは意外に休日が少なく、その代わり皆有給休暇をしっかり取ります。ポスドクも水曜日のカンファレンスは原則必席でしたが、それ以外の日は事前に申請すれば比較的自由に休みを取ることが出来ました。
自分の研究以外にも様々なことに参加するチャンスがありました。手術見学をしたり、併設の病院における治験審査委員会に参加したり、Hoon先生のラボにいたからこそ得られた貴重な機会だったと思います。
一言で言うと最高です。ここにはとても書き尽くせません。正直に書くと自分が想像していた以上に研究が忙しく(自分のやりたい研究が多く)、まとまった休みはそこまで取れませんでしたが、それでも多くの時間を家族と過ごし、日本では決して得られない経験をたくさん得ることが出来ました。新型コロナウイルス感染症、黒人差別による暴動、山火事など、生活や研究生活が制限されることも多くありましたが、かえって家族の絆が深まったように思います。ここでは写真を中心にアメリカ生活のほんの一部を紹介したいと思います。
British Colombiaに留学されていた筒井麻衣先生とWhistler Black Combへ!スキー好きにはたまりません!
同僚の結婚式。アメリカらしくカジュアルで、みんなお酒を片手に踊ります。
ソーシャルディスタンスを保って、ジムに週一回通いました。
最長の休みは10日間、5000キロに及ぶロードロリップ!写真はForrest Gumpが走ったRoot 163
Show Time! ビールが飲めるテーブル席で同僚達と贅沢に観戦
ロサンゼルスはゴルフ天国です。ラウンド2000円〜
遊んでいる写真ばかりの留学体験記となってしまいましたが、まずは何より研究の楽しさを味わうことが出来ました。Hoon先生がいつもおっしゃっていましたが、これからの時代求められるのはすぐに臨床応用できる研究、バイオマーカーと創薬です。そのためにはTCGAを中心としたBig Dataを活用したBioinformaticsと、大量の臨床サンプルを用いた橋渡し研究が不可欠です。3年間という研究留学としては長いようで限られた期間でしたし、自分の勉強不足もあり、私はほんの一部を齧ったに過ぎません。それでも今後も研究を続けたい!という意識が芽生え、もちろん今後も多くの先生方に助けていただくことになるかと思いますが、研究を継続するための最低限の知識と手技が身についたのではないかと思います。
次に、家族の強い絆を感じることが出来ました。3年間、多くの時間を家族で過ごし(コロナ禍で飲みに行けなかったのが大きな原因の一つですが)、日本では気づかなかった家族の一面に触れたり、日本では出来ないことを沢山家族で経験することが出来ました。
また、日本とアメリカの違いを実感すると共に、医療の面でも生活面でも、沢山の日本の良い点や、もっとアメリカの真似をしても良いのでは無いかという点に気付かされました。
最後になりますが、貴重な留学の機会を与えてくださった北川雄光先生、川久保博文先生、尾原秀明先生をはじめ、慶應義塾大学医学部 外科学教室 一般・消化器外科の先生方に深く御礼申し上げます。
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