胃粘膜下腫瘍は粘膜から発生する”がん”とは異なり、胃の壁の中の筋肉や神経等から発生する腫瘍です。粘膜下腫瘍には様々な種類や悪性度のものが有り、直径2cm以上のものは手術による治療の適応となります。特に5cm以下のものは腹腔鏡下手術の良い適応であり、腹腔鏡下胃局所切除術が広く行われています。この手術では通常自動縫合器と呼ばれる手術用のホチキスの様な機械を用いて、胃の壁ごと腫瘍を切除します。
一方、この手術は胃の壁の切除範囲が比較的広いため、胃の入口(噴門)や出口(幽門)付近の腫瘍に対して行うと食べ物の通り道が狭くなる(狭窄する)恐れがあります。この様な腫瘍に対してはこれまで腫瘍を胃ごと大きく切除し、食道や小腸と残った胃を繋ぐ胃切除術が行われて来ました。当院では、このような腫瘍に対してより胃を切除する範囲を小さくするため、2012年より内科・外科合同のチームで行う腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)という手術を導入致しました。

LECSでは、手術の際に腹腔鏡とともに胃カメラ(内視鏡)を使用します。内視鏡と腹腔鏡の両者を使うことで、左の図のように腫瘍を傷つけること無く、かつ胃の壁の切除範囲を最小限にして腫瘍を切除することが可能になりました。

切開した部分は腹腔鏡を用いて自動縫合器や手術用の糸(縫合糸)を使用して縫い閉じます。特に切除した範囲が噴門や幽門にかかる場合は、1本ずつ手で縫い合わせ、狭窄を予防します。
LECSは十分に低侵襲な手術ですが、腫瘍を切除する際に胃液が少量体の中に漏れ出てしまうことがあります。通常は問題にならない程度の量ですが、腫瘍が胃の内側に露出している場合(Delleと呼びます)、露出した腫瘍に触れた胃液が体の中に漏れ出ることで、腹膜播種を起こす可能性があります。そこで当院では非穿孔式内視鏡的胃壁内反切除術(NEWS)という手術をいち早く導入致しました。
NEWSではまず、上図のように腹腔鏡を用いて胃の壁の外側半分(漿膜・筋層)のみを腫瘍のすぐ外側で切開し、切開された部分を縫い閉じます。これは非常に細かな作業であるため、1本ずつ慎重に手で縫い閉じます。
さらに、内視鏡を用いて胃の壁の内側半分(粘膜・粘膜下層)を腫瘍のすぐ外側で切開し、腫瘍を切除します。切開された部分は内視鏡を用いて内視鏡用のクリップや糸を用いて縫い閉じます。切除された腫瘍は患者さんの口から取り出します。
このようにNEWSでは段階的に胃の壁を縫い閉じることで、胃液を体の中に漏らすことなく腫瘍を切除することが可能です。
これまで広く行われてきた腹腔鏡下胃局所切除術に加え、当院ではこれらLECSやNEWS等の新しい手術を導入し、より個々の患者さんに適した治療を選択することが可能となりました。