「センチネルリンパ節;SN」とは、腫瘍原発巣(がんは初めに発生した場所)から直接リンパ流を受けるリンパ節のことであり、最初のリンパ節転移が発生する場所と考えられており、この考え方を「SN理論」と呼んでいます。さらにいえばSNにリンパ節転移がなければその他のリンパ節転移は生じていないと判断することができると考えられます。「センチネルナビゲーション手術;SNNS」とは、このSNの分布や転移の有無を指標として、リンパ節郭清を個別的に縮小もしくは省略し、それに伴って切除範囲を最小限とすることを目的とした方法です。
すでに悪性黒色腫や乳がんでは、SN 理論の妥当性、臨床的有用性が実証されており、SN転移診断に基づく個別化縮小手術が実践されています。消化器がん領域では、慶應義塾大学病院がSNを消化器がんへ応用し世界で初めて報告しました。早期胃がんは消化器がんのなかでSN理論研究が最も進んだ領域であり、SN転移診断に基づく胃機能温存・個別化縮小手術への応用が期待されています。

SNは最初のリンパ節微小転移が発生する場所とする考え方をSN理論とよんでいます。腫瘍から最も近い位置のリンパ節が必ずしもSNであるとは限りません。またSNは2個以上存在することも稀ではありません。

実際には、トレーサーと呼ばれる物質を腫瘍原発巣周囲に投与し、一定の時間をおいてトレーサーが集積したリンパ節をSNと判断し、それを生検(切除)したうえで、顕微鏡で転移の有無を診断します。
- どのような利点があるのか?
-
がんの種類は違いますが、乳がんではSN理論の妥当性が実証され、欧米ではSNNSは診察や画像所見でリンパ節転移を認めない(cN0といいます)乳がんに対する標準的な術式となっています。日本でも同様にcN0乳がんに対してはすでに多くの施設で日常臨床としてSNNSが行われています。乳がんにおけるSNNSは、これまで長年にわたり行われてきた腋窩リンパ節郭清をSN生検結果により省略するという画期的な治療法の開発につながり、患者に対して大きな恩恵をもたらした。例えば、術後高頻度に発生していた患側上肢のリンパ浮腫や知覚障害、挙上障害などを有意に減少させました。このような恩恵は乳がんや皮膚がんだけにとどめないで、ほかのがんの種類でも広がることが期待されます。
早期胃がんにおいてSN理論が成立するのであれば、乳がんのようにSN転移を認めない早期胃がんはリンパ節郭清の完全省略と胃(原発巣)の局所切除だけで根治術とすることが理論的には可能となります。現在の胃がんの標準的手術は胃の大きさの2/3程度の切除とある程度の範囲のリンパ節郭清とされていますが、それに伴い胃切除後症候群や迷走神経切離症候群などの術後の症状が生じる可能性があります。しかし、早期胃がんの多くはリンパ節転移を認めません。したがって、リンパ節転移に対する安全性を担保しながら、現在の標準術式で起こる可能性のある術後の症状を回避し、胃の血流や胃の大きさをより残すことが今後の早期胃がんの手術の中心となることが期待されます。