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慶應義塾大学医学部 一般・消化器外科 上部消化管班

食道がん

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疾患について

食道にできた悪性腫瘍を「食道がん」といいます。
食道がんは、食道の4層構造のうち、主に粘膜層から発生します(図)。


図:日本食道疾患研究会編:食道がん治療ガイドライン、金原出版、東京 2002より抜粋

粘膜層は主に扁平上皮(へんぺいじょうひ)という細胞から構成されていますが、日本ではこの扁平上皮が、がん化した「扁平上皮がん」が、食道がんの9割を占めます。その他には、粘膜層の腺上皮(せんじょうひ)から発生した「腺がん」や筋層から発生したがんなど特殊な食道がんもありますが、日本ではまだ少数です。ただし、欧米諸国では腺がんが大部分を占めており、食生活や生活習慣の欧米化などから、今後日本でも腺がんが増加すると予想されています。食道がんは60歳以上の男性に多くみられ、男女比は約5:1とされています。

リスクファクターとして、食道と同じ粘膜である舌や口の中・喉のがんにかかった事がある場合、発症率が高くなります。その他、50歳以上の男性で、毎日お酒を飲む・飲むと赤くなる、ヘビースモーカーなどがあげられます。

食道がんは、まず粘膜に発生し、進行していくに従って粘膜層から粘膜下層、筋層へと深く入りこみ、さらには外膜を越えて肺や気管・気管支、大動脈といった周囲の重要臓器にまで達します。同時に、食道がんはリンパ節や肺や肝臓、骨といった他の臓器にも転移を来たしやすいという特徴があります。
食道がんは、たとえ粘膜層や粘膜下層にとどまっているがんであっても、しばしばリンパ節転移を来たし、その頻度はがんが進行するに従って増加していきます。

食道がんは年間死亡数10,000人に及び、胃がんに比べてリンパ節転移頻度が高く、手術後5年生存率が約50~60%と治療方法も難しくなります。

自覚症状

食道がんの症状には、

  1. がんそのものによる症状
  2. がんの転移により引き起こされる症状

があります。

がんそのものによる症状
食べ物がつかえる感じ、胸がしみたり、胸がチクチクしたりする感じ、喉の違和感といった症状があります。また、一般的にがんは血管が豊富なため出血しやすく、食道がんの場合には吐いたものに血が混じるといった症状も見られます。食道がんが進行すると、周囲の臓器に達することでさまざまな症状が引き起こされます。よく見られるものとしては、背中の痛みや胸の痛み、気管・気管支に浸潤すると頑固な咳や血の混じった痰(たん)が出るようになります。
がんの転移により引き起こされる症状
リンパ節に転移したがんが、声を調節する神経に浸潤すると、声がかすれるようになります。また、この段階になると、体重が減っていくといった症状も出るようになります。 この段階で発見される食道がんは治療により治る見込みが高く、症状のないうちから、定期的に検査を受けることも大事であるといえます。

検査

食道のがん病変を「原発巣」といいますが、食道がんの診断は、

  1. 原発巣の状態
  2. リンパ節や他臓器への転移の状態
  3. 他のがんが存在するかどうか

を念頭において行います。

原発巣の状態

原発巣の状態は上部消化管内視鏡(胃カメラ)、バリウムX線検査で行います。がんの浸潤や広がりの程度、場所、個数といった項目を評価します。また、内視鏡検査では、原発巣を観察すると同時に、直接組織を採取し病理検査を行います。これにより食道がんの診断が確定するとともに、どのタイプのがんであるのかを判断します(日本では扁平上皮がんが一般的です)。

さらに、内視鏡検査の際にはがんの状態を的確に判断するため、ヨード入りの液体(ルゴール液)を検査中に散布し食道を染色します。正常な食道の部分はヨードで茶色く染まるのに対し、異常な部分は白く抜けて見えることを利用した診断法で、これを併用することで早期のがんも発見できる確率が高くなります。
最近では、狭帯域フィルター内視鏡(Narrow band imaging:NBI)の登場により、微細血管構造観察による内視鏡診断という新しい診断学が生まれ、当院でも診断の向上に活用しています。

リンパ節や他臓器への転移の状態
リンパ節や他臓器の転移の状態を知るには、まず造影剤を使ったCTを行います。また、CTにより、原発巣から他の臓器への浸潤の程度を知ることもできるため、正確な診断には必須の検査となります。MRIを使って原発巣や転移の状態を知ることもできますが、CTの方が簡便で診断能力も優れているため、特別な場合を除き通常行うことはありません。また、転移の状況をより正確に把握するため、補助的に超音波検査や超音波内視鏡検査、PET検査を追加することもあります。
他のがんが存在するかどうか

食道がん患者さんは、咽頭・喉頭がん、胃がん、大腸がんなど他のがんの合併が多いということが知られています。これらを検索するため、上部消化管内視鏡検査やバリウムX線検査で喉や胃に関しても精細な検査を行います。大腸に関しては、大腸内視鏡検査やバリウム注腸造影検査を行います。また、肺がんやすい臓がん、肝臓がんといったその他のがんに関しては、CTや超音波検査で同時に検索します。

その他、補助的な検査として、「腫瘍マーカー」といわれるものを血液検査で測定します。食道がんでは、CEA(がん胎児抗原)、SCC(扁平上皮がん特異抗原)、p53抗体といった項目がありますが、この数値だけで原発巣や転移の状態を知ることはできません。また、これらの項目は他のがんでも上昇することがあり、食道がんに特異的というわけでもありません。

検査の結果に基づき、原発巣の浸潤の状態、リンパ節転移の状態、他臓器転移の状態を評価することで、がんの病期(ステージ)が決まります。食道がんでは、病期は0期、I期、II期、III期、IVa期、IVb期の6つに分けられ、この病期により治療方針が決まります(図)。


図:日本食道疾患研究会編:食道がん治療ガイドライン、金原出版、東京 2007より抜粋

治療・治療方針

早期のがんであれば、内視鏡的粘膜切除術や内視鏡的粘膜下層剥離術が行われます。
転移がある場合の手術は侵襲が大きく、開胸・開腹をして食道、首・脇・お腹のリンパ節を全て摘出します。そして胃袋を細くし、食道の位置まで持ち上げてゆきます。

この手術は難しく、手術関連死亡が3~4%(全国平均)と報告されています。
進行がんに対する治療は、外科治療だけでなく、化学療法・放射線治療があります。

進行がん(StageII、III)の場合は、化学放射線療法により3分の1の患者さんが治ります。
その他3分の1は一度がんが消えすぐに再発してしまう、残り3分の1はがんが消えず残ってしまう、という結果が出ています。つまり3分の2は救済手術(サルベージ手術)を要しますが、その危険度は更に高くなります。そこで、内科・外科・放射線科共同の食道がん治療が進められています。

例えば、PET検査を使い食道がんの化学放射線療法の効果予測をして、ダメージを最小限に抑える事ができます。患者さん一人一人、効果的ながん治療方法が異なる為、医師と患者さんが納得して進める治療が大切です。

慶應義塾大学病院での取り組み

1.集学的治療
手術、放射線治療、化学療法、内視鏡治療のうち一つを選択する、というのではなく複数の治療法を組み合わせて治療方針を立てることが多くなっています。これを「集学的治療」といいます。当科では、この集学的治療をより効果的、効率的に行うために内科や放射線科と連携し、協力して診療に当たっています。各科と密に連絡をとって最善と考えられる治療を提供します。
2.低侵襲治療

胸腔鏡腹腔鏡併用食道がん手術(VATS/HALS) 手術創 当科では胸腔鏡腹腔鏡併用食道がん手術(VATS/HALS)を1996年から開始し、これまで100例以上の経験症例があります。VATS/HALSは通常の手術より手術創が小さく(写真)、術後の負担が少なくなるというメリットがあり、手術成績は通常の開胸開腹手術と変わらないと考えております。また、周術期合併症予防対策にも積極的に取り組んでおり、当院での手術死亡率は0.9%であり、全国平均より良好です。

また、内視鏡的粘膜切除術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)も積極的に行っています。

3.センチネルリンパ節生検
当科では「センチネルリンパ節理論」と呼ばれる理論を臨床に応用しています。"がんが一番最初に転移するリンパ節"="がんからのリンパの流れが一番最初に到達するリンパ節"を「センチネルリンパ節」と呼びます。このセンチネルリンパ節をアイソトープ(放射性同位性元素)や色素を使って見極め手術や放射線治療に生かしています。当科では1999年から食道がんのセンチネルリンパ節生検を行っており、世界でも最も多くの症例を持つ施設の一つとなっています。
4.化学放射線療法
当院では90年代前半より、導入しており、良好な成績を残しております。
病変が残ってしまった症例にはサルベージ手術もやっています。
5.診療実績
診療実績2014年の全食道がん治療例は221例です。そのうち、外科手術症例は44例、内視鏡治療症例(ESD・EMR)は91例であり、年々増加してきています。
  食道切除 EMR・ESD その他
2006 30 20 24 74
2007 20 21 46 97
2008 27 20 39 86
2009 46 38 14 98
2010 42 55 19 116
2011 44 48 20 112
2012 50 54 37 107
2013年※ 53 86 64 217
2014年※ 44 91 61 221

その他:化学放射線療法など(外科入院)
※2012年以前は外科入院のみ、2013年以降は院内集計。

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